近年、建設業界では人手不足や長時間労働、後継者の育成といった課題に直面しており、DX(デジタルトランスフォーメーション)による抜本的な改革に取り組む企業が増えています。

東急建設株式会社様もDXを推進する中で、高品質かつ全社で活用可能なデータの重要性を強く認識しており、IoTを含む社内データを最大限に活用するための「次世代型データプラットフォーム」を構築されました。現在は、その活用フェーズに入っています。

同社の経営戦略本部デジタルイノベーション部では、データプラットフォームとIoTデータの連携を目指す中で、さまざまなサービスやソフトウェアと接続し、ダッシュボード上で情報を一元管理できる「e-Stand」に注目。今回は、同社の柴富 久行氏と嶽野 聡氏に、PoC(概念実証)を通じて得られた成果と今後の展望について話を伺いました。

多岐にわたるIoTセンサーデータをどのように統合するのか

建設現場で扱うデータは、粉塵、騒音・振動、気象データなど多岐にわたり、使用されるセンサー機器も現場ごとに異なります。そのため、通信方式やデータ形式が統一されておらず、必要なデータを一括で取得・活用するには多くの課題が伴っていました。

「各メーカーと個別に開発を進めるとなると、膨大なコストと時間がかかってしまいます。PoCを検討する中で、この煩雑な運用をいかに整理しながら前に進めるかが最大の課題でした」(柴富氏)

経営戦略本部デジタルイノベーション部  左:嶽野聡 氏 / 右:柴富久行 氏

IoTデータを連携し、一つの画面で可視化できる「e-Stand」に期待

そこで導入を検討したのが「e-Stand」でした。

各現場で導入されていた機器は、通信方式やフォーマット、プロトコルがそれぞれ異なっていましたが、e-Standはそれらを集約し、統一された形式で東急建設株式会社様のデータプラットフォームと連携できる点が、大きな魅力だったといいます。さらに、集約されたデータを一つの画面で管理できれば、現場において映像やセンサーを使った施工状況のリアルタイム管理でだけでなく、本社・支店から現場の安全管理や業務改善指示といった形での二次利用にも期待ができます。

 

多種多様なセンサーデータをダッシュボードに集約

PoCでは、関東エリアの土木・建築施工現場に協力を依頼し、e-Standのダッシュボード上に、各種データが正しく反映されるかどうか検証を行いました。

既設センサーとの連携や、e-Standと連携可能なWebカメラ「e-Sense カメラ」、および雨量・風速・湿度・WBGT、騒音・振動を計測できる「e-Sense IoT」を導入しました。

また、e-Stand とデータプラットフォームの連携だけでなく、現場の安全や生産性向上に寄与できるかということについても検証を行い、現場からの意見を伺いながら進めました。

遠隔で迅速な状況確認や判断が可能に

「当初のイメージ通り、さまざまなデータをダッシュボードに集約できました。e-Senseで導入した機器だけでなく、既存の粉塵計や産廃業者の車両ナンバー、ガス検知といった情報もリアルタイムで表示できるようになりました」(嶽野氏)

ダッシュボードは、局所的な情報の可視化にとどまらず、複数現場のデータを横断的に、リアルタイムで確認することが可能です。

「カメラ映像に加え、騒音・振動や天候など多くの情報を一つの画面で同時に確認できるため、迅速な判断が可能になりました。たとえば、坑内作業があった際、ガス検知センサーがあれば、作業員が現場に行かずとも、安全性の判断ができるようになります」(嶽野氏)

 

土木・建築の知見を持つ「IT監督」の存在

また、PoCの成功を支えた要素のひとつが、「IT監督」の存在でした。これは、ソリューション提案から導入、運用までをトータルに支援してくれる技術者であり、現場の実務に寄り添ったサポートを行います。

「ネクストフィールド様の持つ土木・建築の知見が非常に有効に機能しました。現場との打ち合わせにも必ず同席していただき、工程や状況を踏まえたうえで、利用コンテンツや導入センサーの提案だけでなく、安全かつ迅速なセンサー設置作業を実施いただけました」(柴富氏)

PoC成果から見えた今後の「展望」

PoCの成果を経て、e-Standの継続的な活用方法が見えてきた一方で、さらなる改善要望も明確になってきました。

「計測値の表示方法にもっとバリエーションがあると助かりますし、デバイスや画面サイズに応じてレイアウトやコンテンツが自動調整されると、さらに使い勝手が向上すると思います」(柴富氏)

「所長や現場監督からヒアリングすることで、入退場履歴管理やAIナンバー読み取り機能の強化など、現場にとって有益な機能が把握でき、e-Standをさらに強化していきたい」(嶽野氏)

局所的ではない、データ活用の可能性を広げたい

今回のPoCを通じて、バラバラだったIoTデータをe-Standに集約し、データプラットフォームへ連携することで、データを一元管理できる環境が整いました。今後は、各現場での活用にとどまらず、全社的なデータ活用の活性化を視野に入れています。

「e-Standでは、支店や会社固有の情報もダッシュボードで可視化できます。こうしたデータをさらに活用し、現場の見える化やデータプラットフォームに連携されたデータの二次活用による安全性や生産性の向上に貢献していきたいと考えています。引き続き、ネクストフィールドさんのご支援を期待しています」(嶽野氏)